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Apple の新しい無線ヘッドフォン「AirPods」のデザインが「妥当」であると言える理由

ここでいう「デザイン」は製品のハードウェアの外観形、色、柄、素材のことで、ソフトウェアや内部部品を含めた全体的なデザインの話ではありません。

先月の iPhone 7 の発表の時に同時に発表された AirPods ですが、ネット上の書き込みや周りの人の意見を聞く限り、あまりいい評価はされていないようです。

あのまるで従来の EarPods からケーブルだけ切り落としてしまったかのようなデザインは、確かに一目で「変なデザイン」という印象を与えます。

しかし、Appleの過去の製品や前作である EarPods のデザイン、またAppleが目指す無線化された世界を考え合わせると、このデザインは納得感があるものです。以下、私の考えを説明します。

そもそもAppleは、製品の外観デザインを頻繁に変更することを嫌います。MacBook Airの筐体デザインは2009年からほとんど変わっていませんし、MacBook Proは2012年からほとんど変わっていません。iPhoneは2年に一回変わりますが、iPhone 5, 5s, SE や iPhone 6, 6s, 7のように3つの製品にわたって同じデザインが用いられる例が出てきています。iPadシリーズに関しても、iPad Air, iPad Air 2, iPad Pro はほぼ同じデザインですし、iPad mini に至っては初登場の2012年から現在までほとんど変わっていません。

これは、Appleのデザインが見た目の新しさよりも、美しさを含めた使い心地の良さに資することを目的としていると考えれば、合理的であると言えます。デザインの変更にはコストが伴うので、変更を必要とするような特段の事情がなければ、同じデザインを使い続けることが望ましいからです。

デザインの変更が必要になるのは、技術の進歩に伴い「最適な」デザインが変わった場合や、人々の生活形態の変化によってその製品の利用形態に変化が生じた場合などでしょう。iPhoneのデザインがMacのそれよりも頻繁に変更されるのは、iPhoneの製品カテゴリであるスマートフォンが、Macのそれであるラップトップコンピュータよりも、技術革新のあおりを受けやすいことの影響であると考えられます。

このような観点からヘッドフォンのデザインを見てみると、ヘッドフォンのデザインの変更は頻繁には必要ではないと考えられます。ヘッドフォンの利用形態は、古くはウォークマンの時代から、ほとんど変わっていないからです。

スマートフォンタブレットなど、音楽プレーヤー以外にも用途が広がったことは一つの変化であると言えますが、ヘッドフォンの利用形態は、耳に差し込んで音を聞く、というのが基本であって、この基本的な使い方には変化は生じていません。

実際、Appleがヘッドフォンのイヤーピースのデザインを変更したのは、2012にリリースされた EarPods が最後です。それ以前の製品は Apple Earbuds と呼ばれていたもので、このデザインは初登場の2001年から2012年まで、実に11年間継続されました。

EarPods が登場したのはSiriが初めて登場した iPhone 4s (2012年) の翌年の iPhone 5 の年ですから、この時のデザイン変更はSiriの利用を見越してのことだと考えることができます。おそらくAppleは、この時点で無線ヘッドフォンの発売を見越していたのではないでしょうか。2012年には、AppleはすでにMaciPadiPhoneという3つのデバイスを使い分けるライフスタイルを提案している状態だったので、無線ヘッドフォンの登場は時間の問題だったと考えられます。EarPods は耳によくフィットする形状ですが、イヤーピースが軽い上、全体がすべすべのプラスチックに覆われていて、ケーブルの重みで滑ってしまうことがよくありました。これが無線化されると、この弱点が軽減されるでしょう。

つまり、AirPods のデザインは、すでに EarPods の時点で完成していた、Appleが考える最適なヘッドフォンのデザインなのであって、 AirPods の発売までに、そのデザインを変更する特段の事情は生じなかった、ということです。

AirPods のデザインが予想可能であった妥当なデザインである理由は、もう一つあります。それはメッセージ性です。

Appleは AirPods の発売によって、W1 チップによって制御されたスマートな無線の世界を提案しているのであって、それはAppleの一貫したデザインの方針である、 “It just works” を体現したものであるべきだと考えられます。つまり、Appleは無線かによって何か新しいものを導入したいのではなく、これまでの EarPods と同じように、簡単に、何も考えることなく今まで通り使える、ただケーブルがなくなっただけのヘッドフォンを提案したかったはずです。

そのメッセージをあえて換言すれば、「ケーブルは無くなったけど、それ以外は全て今まで通り。だから心配はない」ということです。Appleは、「ケーブルがなくなった以外は何も変わっていない」と言いたかったはずですから、「ケーブルがなくなった以外は何も変わっていない」かのようなデザインだった、と考えることができるわけです。

なお、機能面から見ても、このデザインは合理性があるものです。Siriや FaceTime を利用するためには、利用者の声をクリアに拾う必要があり、そのためにはマイクが口の方に向けて伸びていることが望ましく、棒状のデザインになることはある種必然でした。

また、重心が耳の中に近ければ近いほど振動などで外れることが少なくなるので、バッテリーやプロセッサなどの、重みを伴う部分は耳に入れる部分に格納したいという事情があると考えられます。

これを先の、口の方向に伸びた棒状のデザインと考え合わせると、耳に入れる部分が膨らんでおり、そこから細い棒が口に向かって伸びているAirPodsのデザインは、必然性があることになります。

AirPods のデザインは、見た目の新しさやかっこよさを追求するのではなく、使い心地、メッセージ性、機能性から正当化されうるものです。